広島地方裁判所 昭和25年(行モ)2号 決定
相手方が昭和二十五年六月十二日財団法人結核予防協会廣島支部長に対して爲した、別紙目録記載の建物の除却命令代執行のための戒告は、本案訴訟完結にいたるまでその執行を停止する。
二、理 由
申立代理人は主文同旨の決定を求め、その理由として、次の通り述べた。訴外財団法人結核予防協会廣島支部は昭和二十四年五月頃附属診療所及び展覧会場の設立を計画したが、資金難のため店舖を併設しその希望者に資金を出させて建築費を捻出する企図あることを聞いた申立人等は、別紙目録記載の通り合計金百三十二万円を醵出し、その代償として、右支部は申立人等に同目録記載の各建物をそれぞれ七年間使用させることを許した。
そこで申立人等は同目録記載のように同年七月下旬頃より遂次家族等と共にこれに居住し、同目録記載のような費用をかけて造作をして営業を始めた。ところが相手方は同年十二月二十三日所有者たる前記支部長に対し、右建物は無許可建築物であるから、昭和二十五年三月二十六日まで除却すべき旨市街地建築物法第十七條に基く除却命令を、次で同月十四日行政代執行法第三條により、代執行する旨の戒告を発したが、その後右期限を同年六月三十日まで延期し、同月十二日重ねて前同様の戒告を発すると共に居住者たる申立人等にその都度通知し立退を命令して來た。しかし前記除却命令には瑕疵が存するから、これを前提として爲された前記戒告処分(第二回目)にもこれと同様の瑕疵が存するのである。
(一) 法律上の人格は別個であつても、事実上同一人である楠瀬常猪が、先には縣知事として許可を與えながら、後にはこれを無許可なりとして前記協会支部長楠瀬常猪に対し除却を命ずることは同一人の矛盾した行爲であつて無効である。
(二) 右支部に対する許可がないからといつて、善意の申立人等に対し立退を命令するのは権限の濫用であつて、このことは、本件店舖とその附近一帶の建物を全部除却しなければ都市計画事業の一環である道路敷設の目的を達し得ないことによつても明かであるのに独り本件建物だけを早急に除却するのは著しく不公平であり、違法たるを免れないのみならず、申立人等の居住権及び生活権を侵害する違憲の処分であるから無効である。
かりに除却命令に瑕疵がなく有効であるとしても、第三者たる申立人等に対しては、その効力は及ばない。そこで申立人等は、昭和二十五年六月二十六日相手方に対し、右除却命令及び戒告処分に対し、異議申立をしたが、その裁決をまつていては除却期限が到來し、著しい損害を蒙る虞があるので、同月二十九日これら処分取消請求訴訟を廣島地方裁判所に提起したが、右処分の執行により申立人等は償うことの出來ない損害を蒙るので、これが停止を求めるため本件申立に及んだ次第である。(疏明省略)
相手方代理人は先づ申立却下の決定を求め、その理由として、
(一) 申立人等は除却命令及び戒告の相手方でないから当事者適格がない。
(二) 戒告は單に行政廳の通知行爲にすぎず、取消訴訟の対象となる行政処分でない。
(三) 本件除却命令は昭和二十四年十二月二十三日前記支部に到達し、爾後六ケ月の出訴期間の満了により、昭和二十五年六月二十四日確定した後に戒告取消訴訟及び本件申立がなされたものである。
以上いずれの点からしても、本件申立は不適法として却下さるべきであると述べ、本案につき申立棄却の決定を求め、申立人等がその主張のような経緯で前記支部に出金したこと及び申立人等主張の居住年月日、家族数、造作費は不知、申立人等主張の如き違法の存することは否認し、その他の事実は認める。
相手方は本件建物の建築は臨時建築として昭和二十四年六月二十日から七月十九日までの一ケ月を限つて許可したのであるから、前記支部は右期限後は当然除却する義務があるのであつて本件申立は失当であると述べた。(疏明省略)
先づ申立人等に当事者適格が、あるかどうかについて判断すると、行政処分取消訴訟は該処分の相手方に限らず、該処分により違法に権利を毀損された第三者でもこれを提起することができるものと解すべきであるから、たとえ本件除却命令及び戒告が申立人等に対し直接なされなくても、これにより申立人等の権利を侵害されたときは、申立人等はその取消を訴求することができるし、その処分の執行停止を求める利益があるといわねばならぬ。そして申立人等の主張自体によつても、かような権利保護を求める利益のあることは明であるから、申立人等に当事者適格を欠くとの相手方の主張は理由がない。
次に相手方は、本件戒告は行政処分ではなく通知行爲に過ぎないと主張するけれども、それは單なる通知行爲ではなくて代執行の前提要件をなす法律上の効果ある準法律行爲的行政行爲であることは行政代執行法第三條により明であるから、行政処分に準じて取扱うべきもので、行政事件訴訟特例法第十條所定の「処分」に包含するものと解するのを相当とするから、この点に関する相手方の主張も採用しない。
そして前記法案には「第二條の訴の提起があつた場合において処分の執行により生ずべき償うことの出來ない損害を避けるため緊急の必要がある」ときは、裁判所は決定を以て処分の執行を停止することができ、この決定に対しては不服の申立ができない代りに、裁判所は何時でもこの決定を取り消すことができる旨規定してあつて、民事訴訟法第五百四十七條のような立言をしていない点からみれば、本件戒告が申立人等の主張するような違法があるかどうかは前記取消訴訟で審理すべきであると解するから、この点に関する判断を省略し、ただ執行停止の必要があるか否かについて考えてみると、本件建物に申立人等が居住していることは、相手方も自認するところであつて、特に今日の住宅事情からすれば本件執行により申立人等に於ては償うべからざる損害を生ずるものというべく、しかも除却期限たる六月三十日も過ぎているのであるから、右損害を避けるため本件戒告の執行停止をすることは緊急の必要あるものと解すべきを以て、申立人等の本件申立は理由あるものと認め主文のとおり決定する。
(裁判官 三宅芳郎 高橋正雄 幸野国夫)
(目録省略)